カンソの間に折衝
父親の栄は「 包丁と俎板の間に入り込める人間になれ!」と良く言っていた。ちっとやそっとでは理解し難い言葉だ。又、「蒲鉾板のような人間になるな!」とも倅の隆之輔や晧三には良く言っていた。どちらも、蘊蓄のある言葉なので考えて見た。包丁と俎板、ホウチョウとマナイタの間に入るなんて出来る訳が無い。身の毛もよだつ話で、そんなに簡単に出来るものでは無い。
調べて見たが中国の言葉らしい。「カンソのカンに折衝」と言う事らしい。手元の辞書では見つからない。折を見てもっと詳しく調べて見たいと思う。又「蒲鉾板」とは板が無ければ泳げない人間を揶揄したもので、サラリーマンにはなるな!勤め人では無く、一本ドッコで一国一城の人間になれ!と言っていた。
「俺はタイプライター一つで仕事をして来た」と言いたかったのだと思う。父親、栄は東京へ出て来て、苦学して英語や貿易業と言う実学を身につけたようだ。父栄の「カンソのカンに立つ」とは、平たく言えば、仲立ち、仲人、仲介役、をイメージしたら良いのではないかと思う。
夫婦喧嘩は犬も喰わないと言うが、詰まらない、事から、始まり、下手すれば、離婚、事件?まで行って仕舞うものだ。先日TVで夫婦喧嘩は仲介者無しでは、決して元の鞘に収まらないものだと、お笑いの時間でやっていたが、確かだと思う。こんな時は、旅館のナカイさんが太鼓持ちになって直して呉れるものだと言っていたが、成程と思った。
夫婦喧嘩とか男女の仲違いをしている所へ、突如人が訪ねて来たりすると、それが助け船となる事は、極、日常的に経験する所だ。大きく言えば国と国との戦争でも、その仲介役は重大な役目をする。そうなると「カンソの間に折衝」とは、平和を保つためには、大変重要な事になる。
親父、栄はそんな大望を何処で感じたのか分からない。父親の本棚には「モテクリスト伯」「ジャンバルジャン」など入っていたが、大学等出ていない。だが、子供達には大学だけは出なさいと言っていた。
父親、栄は東京へ出て来て、苦学して英語や貿易業と言う実学を身につけた。
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